状況
Oさんの夫は結婚して間もなく不倫していたのですが、不倫発覚後に夫と相手女性がOさんに対して交際を解消する旨の約束をしたことや当時Oさんは子供を妊娠していたことから夫との婚姻関係を継続することにしました。
その後、Oさんと夫の間には子供が生まれ、家族で仲良く生活していました。
しかし、結婚して十数年が経過した頃、夫が結婚当初に不倫をしていた相手女性と再び不倫関係となっていること及び夫と女性の不倫関係は過去数年にわたって続いていたことが判明しました。
Oさんは夫に裏切られたショックで夫との離婚を決意したものの、夫と直接交渉するのが難しいと感じたことから、Oさんは弁護士に協議離婚の代理交渉をご依頼されました。
弁護士の活動
1 交渉の開始
弁護士は夫に対して内容証明郵便により離婚と婚姻費用などの請求を行ったところ、夫がすぐに弁護士を立ててきたため、夫の弁護士との間で離婚に関する交渉を行うこととなりました。
2 交渉の経過
まず、弁護士は、交渉の中で、①養育費や婚姻費用に子供が通う私立学校の学費を加算すべきである、②子供が医学部や大学院への進学を具体的に想定し、夫もこれを応援していた以上、養育費の終期は子供が医学部や大学院を卒業するまでとすべきであると主張した上、③Oさんの預貯金は相続により取得したものであるため財産分与の対象外であるなどの主張を行いました。
これに対し、夫側は、③には同意したものの、①養育費や婚姻費用が数十万円と高額であるため、私立学校の学費は養育費や婚姻費用に既に含まれている、②養育費の終期はせいぜい子供が大学を卒業する見込月(満22歳に達した後の最初の3月)までであるとの主張を行ってきました。
夫側の上記主張に対しては、①世帯収入を前提とした場合に算定方式上すでに考慮されている学校教育費の額を算出した上で当該金額と学費との差額の支払いを求めるとともに、②離婚原因がもっぱら夫の不貞行為にあるにもかかわらず子供が予定していた進学や職業選択の幅が狭められるのは不合理であるし夫が望む解決でもないはずである旨の回答を行いました。
その結果、最終的には、①算定方式上考慮されている学校教育費と学費との差額を婚姻費用や養育費に加算すること、②養育費の終期を医学部卒業見込月までとした上で大学院へ進学した場合には従前と同額の養育費を修了見込月まで支払うことの合意をすることができました。
なお、慰謝料に関しては、不倫相手の女性から300万円を獲得しています。
3 合意の方法
合意方法としては、便宜上、離婚条件を詳細に調整した上で初回の調停期日に離婚調停を成立させるという方法を採用いたしました。
ポイント
1 養育費の終期
養育費の終期をいつまでとするかについては、夫婦間で合意できるのであれば特段の制限はありません。
一方、夫婦間で合意できない場合は、両親の学歴、収入、進学に対する両親の意向に照らし、子供が大学に進学する可能性が高い場合には大学等の卒業見込月まで、上記可能性が高いとはいえない場合は子供が満20歳に達する日の属する月までとされるのが一般的で、家庭裁判所が夫婦間の合意がないにもかかわらず養育費の終期を大学院の卒業見込月までと判断すること基本的にはないものと考えられます。
※養育費の終期に関する考え方については、詳しくは「こちら」をご覧ください。
2 義務者が高所得者である場合における婚姻費用・養育費の学費加算
(1)改定標準算定方式で考慮済みの学校教育費
司法研究報告書第70輯第2号「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」が提案する改定標準算定方式で考慮済みの平均的な学校教育費は、0歳から14歳までは年額13万1379円(公立中学校の学校教育費相当額)、15歳以上は年額25万9342円(公立高等学校の学校教育費相当額)とされています。
そのため、通常、私立学校の学費の加算が問題になる場合には、実際にかかっている学費から算定方式上考慮されている上記の学校教育費(年額13万1379円または年額25万9342円)を控除した残額の負担割合が問題となります。
(2)世帯年収が高い場合の問題点
婚姻費用や養育費は基礎収入に生活費指数を乗じて算出されますが、子供の生活費指数が公立学校教育費を考慮した上で定められていることから、理論上、世帯収入の増加に伴い算定方式上考慮済みの学校教育費も増加することになります。
具体的には、夫婦の世帯年収が、標準算定方式が前提としている世帯平均年収(0歳から14歳までの子供がいる場合につき732万9628円、15歳以上の子供がいる場合につき761万7556円)を上回る場合には年額13万1379円または年額25万9342円を超える学校教育費がすでに考慮されているといえます。
(3)本件について
本件では、夫婦の世帯収入が世帯平均年収の数倍ある事案であったことから、夫側からすでに学費が全額考慮済みであるとの主張がなされました。
上記の夫側の主張に対し学費の全額負担を求め続けるという対応を行った場合には合意の見通しは立たない一方、夫側の主張をすべて認めてしまうと本来請求できたはずの学費加算分を請求できないことになります。
そのため、夫婦の世帯年収との関係で学費の加算の要否が問題になった場合には、考慮済みの学校教育費を具体的に主張立証していくことで相手方の納得を得ることが重要です。
3 財産分与に関する交渉
財産分与を行う前提として、自身名義の財産に特有財産が含まれているか、含まれているとして特有財産性を証明可能かについて検討しておく必要があります。
また、仮に特有財産性の証明が困難な場合でも、配偶者が特有財産制を認める可能性、慰謝料や婚姻費用その他の状況との関係で預貯金の特有財産性を認める内容の合意ができる可能性等もあります。
そのため、特有財産性の証明の可否にかかわらず、希望する解決内容に最もつながりやすいか否かという観点から特有財産性の主張を行うか否かについて検討しておくことが重要です。
本件では、Oさんの預貯金が特有財産であることを示す資料が乏しい状況でしたが、夫側が特有財産性を認めたことからOさんの預貯金を除外して財産分与を行うことができました。
4 合意の方法
夫婦間に子供がいる場合、通常は養育費を取り決めたうえで離婚を成立させることになります。
養育費は支払期間が10年以上となることも少なくないところ、支払総額が数百万円となることは珍しくなく、場合によっては支払総額が数千万円となる場合もありますが、離婚時に一括して支払われる性質のものではなく毎月払が原則であるため離婚後に配偶者からの支払いが滞るリスクがあります。
上記リスクに対応するため、養育費を取り決めた上で離婚を成立させる場合には、公正証書を作成した上で協議離婚を成立させるか、離婚調停や離婚裁判で離婚を成立させるべきといえます。
上記の方法で離婚を成立させることで養育費の支払いが滞った場合の強制執行が可能となり、ひいては任意の履行も期待できます。
※掲載中の解決事例は、当事務所で御依頼をお受けした事例及び当事務所に所属する弁護士が過去に取り扱った事例となります。