状況
数年前、Vさんの夫は会社から転勤を命じられました。
その際、Vさんは、夫に対し、夫の転勤に家族で一緒についていきたいとの希望を伝えたのですが、夫がこれを拒んだことから夫の単身赴任が始まりました。
単身赴任後、夫ははじめの頃は週末に自宅へ帰ってきていたのですが、次第に夫は全く自宅には帰って来ないようになりました。
これに対し、Vさんは、定期的に自宅に帰ってくるように夫に何度も連絡したのですが、夫は自宅に帰ってこない状況は変わりませんでした。
その後、夫は、弁護士に依頼した上、単身赴任中に全く交流がなかったことを理由としてVさんに対し離婚を請求してきました。
対応に困ったVさんは、当事務所の弁護士に夫の弁護士との交渉をご依頼されました。
弁護士の活動
1 方針決定
Vさんは、できる限り夫との離婚は避けたいと考えていましたが、同時に夫の意思が固いままなのであれば離婚自体はやむを得ないとも感じていました。
ただ、Vさんは結婚以来ずっと専業主婦であったこともあり離婚後の経済状況に大きな不安を抱えていたことから、もしも離婚する場合には財産分与として納得のいく金額を獲得したいと考えていました。
Vさんの上記ご希望を踏まえ、本件については、①夫からの離婚請求を拒否しつつ、②条件次第では離婚に応じる余地がないわけではないという方針を取ることといたしました。
2 夫側との交渉
まず、弁護士は、夫側に対し、「Vさんは基本的に離婚に応じる意思がないが、条件次第では離婚を検討する。」旨を通知した上、財産資料の開示及び婚姻費用を請求しました。
これに対し、夫側は財産資料の一部のみを開示してきました。そこで、弁護士は、夫が保有しているはずの財産について具体的に指摘した上で、資料の開示をあらためて求めました。
夫側から財産資料がすべて開示された後、弁護士は、夫側に対し、財産分与上持ち戻すべき夫名義の財産を指摘した上、Vさんが自宅から退去することや離婚後の生活費を考慮した上、財産分与として2000万円(いわゆる2分の1ルールに基づき財産分与を行う場合より数百万円高い金額)を支払ってもらえるのであれば離婚に応じることが可能である旨を通知しました。
夫側は上記条件に難色を示していたのですが、最終的には「夫がVさんに対し財産分与として2000万円を一括で支払う。」、「年金分割の按分割合を0.5とする。」との条件で合意した上、Vさんが希望する内容で自宅からの退去日を調整することができました。
その結果、Vさんは、弁護士がご依頼をお受けしてから約8か月で財産分与として2000万円を獲得した上で夫との離婚を成立させることとなりました。
ポイント
1 婚姻費用の請求
婚姻費用は請求時を始期とすると考えられているところ、内容証明郵便等により早期に婚姻費用の分担を求める意思を確定的に表明しておく必要があります。
本件ではご依頼いただいた翌日に婚姻費用の請求を行っておりますが、請求額(暫定払として求める金額を含む。)や請求の方法についても別途検討が必要です。
※婚姻費用の性質や算定方法については、詳しくは「こちら」をご覧ください。
2 財産分与の対象財産の確定
(1)財産資料の開示
財産分与については、まず対象となる財産を確定させる必要があるところ、対象財産を確定させるための資料開示が重要な意味を持ちます。
今回の場合、Vさんが夫の財産をある程度把握できていたこと、また開示された資料から別の財産資料の存在を確認できたことから未開示の財産資料(生命保険、預貯金口座、有価証券など)を具体的に指摘することができ、その結果、夫が保有していると考えられるすべての財産資料が開示されました。
(2)財産の持ち戻し
財産分与の基準時は別居時とされているものの、別居前に出金した預貯金等を持ち戻した上で財産分与を行うべき場合もあります。
本件では、夫が財産分与の対象として主張していた夫名義の預貯金は、夫が弁護士費用を振り込んだ後の残高でした。
そこで、弁護士費用相当額を持ち戻して財産分与を行うよう主張したところ、上記金額を持ち戻した上で財産分与を行うことができました。
(3)財産分与に関する交渉
財産分与については、夫婦共有財産を原則として2分の1ずつ分ける清算的財産分与がその中心に位置づけられます。
そのため、財産分与を請求する際には、①まず財産分与の対象財産である夫婦共有財産ができる限り多くなるような主張立証を行い、清算的財産分与として請求できる金額をより大きくする、②清算的財産分与に関する見通しを前提に交渉を行う、ということが重要です。
もっとも、離婚に伴い自宅から退去する場合や妻が結婚してからずっと専業主婦であった場合は、離婚すると別居後の妻の生活が成り立たなくなる可能性もあります。
そこで、財産分与を請求する際には、夫婦の一方が離婚により受ける不利益の大きさや婚姻費用の支払状況、離婚原因の所在等を前提として清算的財産分与以外の経済的給付が行われる可能性を検討した上、必要に応じて扶養的財産分与その他の経済的給付を請求すべきといえます。
※財産分与の種類や内容については、詳しくは「こちら」をご覧ください。
※掲載中の解決事例は、当事務所で御依頼をお受けした事例及び当事務所に所属する弁護士が過去に取り扱った事例となります。